プロローグ:ある日突然、家に届いた「請求書」

「発信者情報開示に関する意見照会書」
この漢字だらけの書類を手にした瞬間、あなたの脳内では高速で言い訳が組み立てられる。「俺じゃない」「家族の誰かだ」「Wi-Fiをハッキングされた」「そもそもダウンロードしただけで…」
ああ、なんと創造的な言い訳の数々! もしこの創造性を仕事に活かしていれば、きっと月額1,000円のサブスクくらい余裕で払えたはずなのに。
第一章:「みんなやってる」という勇気
BitTorrentの利用者は、まるで赤信号をみんなで渡る集団のようだ。「みんなやってるから大丈夫」―この論理で行けば、みんなで崖から飛び降りれば重力も無効になるのだろうか。
特に興味深いのは、彼らの多くが「技術に詳しい」ことを自負している点だ。P2Pの仕組みを理解し、VPNの設定もできる。でも著作権法は理解できない。まるで、車の構造に詳しいが交通ルールを知らないドライバーのようなものだ。「エンジンの仕組みは完璧に理解してます! え? 赤信号で止まる? なにそれ?」
第二章:アダルト動画と家族の団らん

最も皮肉なのは、請求の多くがアダルト動画に関するものだということ。
想像してみてほしい。夕食時、家族団らんのひととき。 「お父さん、なんか変な書類が届いてるよ」 「ああ、それは…仕事の…技術的な…研究で…」
株式会社WILLや株式会社ケイ・エム・プロデュースという会社名を、どうやって「仕事の研究」と説明するのか。その創造的な言い訳を聞いてみたいものだ。きっと芥川賞も夢ではない。
第三章:20年前の賢者たち
かつてWinMXやWinnyを使っていた古のネット民たちがいた。「Yahoo! BBで人生が変わる!」と謳われたADSL時代。下り最大8Mbps(実測は良くて3Mbps)という、今思えば涙ぐましい速度で必死に音楽をダウンロードしていた。アルバム1枚に2時間、映画なら一晩中。PCをつけっぱなしにして朝を迎える、まるでデジタル時代の農耕民族だった。

彼らの中の賢者は、2003年頃には早々に手を引いた。「タダより高いものはない」―この古代の格言を理解していたのだ。
一方、現代のデジタル海賊たちは、光回線で映画を3分でダウンロードできる。技術の進歩により、考える時間すら与えられないまま、違法行為を積み重ねていく。まるで、高速道路を時速200キロで走りながら「事故るわけない」と信じている暴走族のようだ。
第四章:請求額という現実
「最低750ドルから最大15万ドル」 「2000万円から1億6700万円」
これらの数字を見て青ざめる人々。月額1,000円のサブスクを「高い」と言っていた人が、突然100万円の請求に直面する。これぞまさに「ペニーワイズ・パウンドフーリッシュ」(小銭に賢く大金に愚か)の完璧な実例だ。
「でも実際の和解金は数十万円程度でしょ?」
ああ、そうだ。たった数十万円だ。Netflix約8年分、Amazon Prime約10年分、たったそれだけの金額だ。お得じゃないか!

第五章:「削除したから大丈夫」という希望
ファイルを削除すれば証拠隠滅完了! そう信じている人がいる。
これは、銀行強盗が盗んだ金を使い切って「もう金はないから無罪」と主張するようなものだ。デジタルの足跡は、まるで防犯カメラの映像のように、あなたが何をしたかをしっかり記録している。IPアドレスという名の「指紋」は、プロバイダのログにしっかり刻まれている。
エピローグ:令和の海賊たちへの助言

親愛なるデジタル海賊諸君。
君たちの「節約術」は実に独創的だ。月額1,000円を節約して、数十万円のリスクを背負う。これは新しい投資手法だろうか? 「ハイリスク・ノーリターン投資」とでも呼ぼうか。
もし君たちが本当に賢いなら、こう考えてみてはどうだろう。
- 正規のサブスクに加入する(革命的なアイデア!)
- 図書館を利用する(合法的な無料コンテンツ!)
- YouTube等の合法的な無料サービスを使う(広告を見る忍耐力は必要)
最後に、20年前にWinnyから早期撤退した賢者の言葉を贈ろう。
「タダ飯にはいつか請求書が来る。しかも利子付きで」
令和の時代、デジタル海賊船はもはやロマンチックな冒険ではない。それは単なる、計算のできない人々の愚かな賭けにすぎないのだから。
【筆者注】本コラムは、BitTorrentソフトウェア自体を批判するものではありません。正当な用途も多数存在します。ただし、著作権侵害目的での使用は、まあ、頑張ってください。請求書と一緒に。


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